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住まいのコラム
住宅供給者として、あらためて防災意識を問う

地震国の地震多発期

自分が設計し、施工し、維持管理している構造物が地震で壊れて人を殺す状況を、みなさん考えたことがあるでしょうか。運が悪ければ、あなたの大切な家族がそれを利用している時間帯に地震が発生し、犠牲者になってしまうのです。その時に、「これは仲間が作ったものだから、基準に適合しているから、きっぱりあきらめる」と、あなたは言えますか。そんな状況になりかねない危機がいま日本に迫っています。
現在わが国は、地震学的に活動度の高い時期を迎えています。文部科学省の地震調査研究推進本部によれば、切迫している東海地震はいうまでもなく、M(マグニチュード)7・5〜8クラスの、東南海・南海地震の発生確率は今後30年および50年でそれぞれ40〜50%、80〜90%、宮城県沖地震については今後20年で85%、30年で99%と報告されています。しかもこれらの地震の前後に起こるM7クラスの地震(兵庫県南部地震クラス)M数は数倍になると考えられています(図1)。近い将来に起こると予測される一連の地震による被害総額予測は、最悪では300兆円超(現在のGDPの約6割)。これを仮に30年で割ったとしても、1年当たりの被害額は10兆円と、阪神・淡路大震災の直接被害額に相当します。私たちは、世界有数の地震国で、特に活動度の高い時期に暮らしています。この状況下で、自分や家族、財産はもとより、日本の将来や世界経済に与える影響をいかに小さくできるかを、一人ひとりが自覚する必要がある。もはや時間がありません。しかし幸いにして、私たちは自分たちで状況を変えられる可能性もあるのです。

地震発生率の試算結果

犠牲者は地震発生後15分以内に集中

マスコミは、阪神・淡路大震災の教訓として、災害情報システムやレスキュー体制、仮設住宅問題などを取り上げています。しかしこれらは、構造物被害と人的被害を原因として発生した問題であって、建物被害が少なければ大きな問題として顕在化しなかった可能性が高いのです。地震防災上の最重要課題は、耐震性に問題のある「既存不適格構造物の問題」に他なりません。
阪神・淡路大震災では、地震直後に24万棟の建物が全半壊し、地震後2週間までに約5500人のいのちが奪われました。兵庫県監察医による記録では、建物の崩壊や家具などの転倒・落下を主因とする窒息死(53・9%)や圧死(12・4%)、打撲・捻挫傷死(8・2%)、頭部や首・内臓の損傷死(6・6%)などが全体の84%を占めます(表1)。死亡推定時刻を見ても、地震直後の15分以内(監察医によれば実際は5分程度)で犠牲者の92%が亡くなっています。つまり、犠牲者のほとんどは、警察や消防、自衛隊による救出・救命や救護体制がいかに整っていたとしても、救うことができなかったことを示しています。火災で亡くなった人の多くが被災建物の下敷きになっていて、火事がくるのに逃げ出せなかったことで犠牲になっています。
兵庫県南部地震による神戸市内の犠牲者の死因
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最重要課題は被害抑止力

総合的な地震防災力は、1.被害抑止力 2.被害軽減・災害対応力 3.最適復旧・復興の3つをバランスよく講ずることで実現します。しかし3者のなかで最も重要なのは、いうまでもなく、被害抑止力、すなわち事前の対策によって建物被害を少なくすることです。どんなに優れた対応システムや、復旧・復興戦略を持とうが、地震直後に発生する被害は減らせません。  
阪神・淡路大震災の最大の教訓は、「激しい揺れで地震の最中から直後に発生した約24万棟の建物の大破、もしくは甚大な被害により、直後に5500人の犠牲者を出したことが、その後に発生した様々な問題の根本的な原因であり、これらを減らす努力なしには地震防災はありえない」ということです。

耐震補強促進の担い手として

最近の地震防災対策は、ソフト面を重視する傾向にありますが、ここにも落とし穴があります。ソフト面の対策は、ハードの機能がある程度確保されてはじめて機能します。人の生命や文化財など、代替のきかないものはハードの対策で守るほかありません。ところが、わが国のハード面の対策として最も重要な「住宅の耐震補強」は一向にすすんでいません。現状では震度6以上の地震に対し、その半分が倒壊または大破壊の危険があるといわれています。しかも火災は、これら倒壊建物からの延焼によるものが多いこともわかっています。また昭和56年の新耐震基準以前に建築された建築物のうち、耐震診断が必要と推定される住宅は1200万棟といわれ、これだけ、既存不適格構造物があるというのに、ハウスメーカーやリフォーム業者でも特に積極的なようには見えません。が、それはあきらかな間違いです。

住宅供給側にあっては、新耐震基準以前の自社施工建物についてはもちろん、リフォームの際には、耐震補強の重要性を広めることはできるはずです。技術的な側面だけでなく、行政など公的機関へのはたらきかけなど、補強対策が得になる制度の仕組みを築いたり、地域の一員として参画する方法もあるのではないでしょうか。また、耐震性に定評のあるツーバイフォー住宅の新築時でも、阪神・淡路大震災の被害状況を知らせ、家具の転倒防止のアドバイスをすることなどは義務と考えるべきです。医者は誤診によって患者を一人ずつ殺すことになりますが、住宅供給者の間違った判断は、まとめて多くの人を殺すことにつながりかねないのですから。

災害イマジネーション能力を高める


兵庫県南部地震における建物被害の特徴

私は、トルコやイランなど、世界各地の地震被害現場の調査や地震防災の立ち上げ活動を行うなかで、防災力向上の基本について考えてきました。結論として最重要課題は、「災害環境イマジネーション能力の向上」。発災からの時間経過のなかで、自分のまわりで起こる様々な災害状況を具体的にイメージできる人を増やすことです。私は、この能力を高める方法を提唱しているほか、子どもたちへの教育、各種公的制度への提言など、多面的な活動を続けています。  現在の地震活動度を考えると、われわれは、近い将来、自分のしてきた仕事の善し悪しを、地震によって否応なくチェックされる状況にあります。住宅供給関係者の方には、事前対策の重要性を認識していただき、耐震補強や防災教育の要として、自分自身と家族、会社や地域、ひいては、わが国を地震から守る一翼を担っていただきたいと考えています。

(2004年9月)



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