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ホーム住まいのコラム>エッセイ「私の住宅考」:小神正志氏

私の住宅考

はじめに

本格的な少子高齢社会、人口・世帯減少社会の到来を受けて、住生活の質の向上を図る政策を総合的に展開することをめざす住生活基本法が昨年6月に制定された。また、9月には同法に基づく初めての基本計画(住生活基本計画)が閣議決定された。
基本法では、住宅の品質・性能の維持向上、地域における居住環境の維持向上、住宅の適正取引の確保など「基本的施策」と施策を推進するに当たっての「基本理念」、さらに、国・地方公共団体、住宅関連事業者、住民等の「責務」を明示している。
基本計画では、国民の住生活全般の質の向上を図るための幅広い施策について、具体的な成果指標を採り入れて明らかにしている。また、住宅について、「人生の大半を過ごす欠くことのできない生活の基盤」であり、「都市や街並みの重要な構成要素であり……地域の生活環境に大きな影響を及ぼすという意味で社会的性格を有するもの」と明確に位置づけている。住宅は単なる私有財産ではないという指摘はかねてよりなされてはいたが、住宅に対する関係者の責務は重いものであるとの認識を示しているとも考えられる。
住宅に関係する者のひとりとして、自分の経験も踏まえ、いくつかの感想を述べてみたい。

 

勤労者の夢

ひと昔前、勤労者の夢は「郊外の庭付き1戸建て住宅」であった。「小さな白い家」をテーマにし、そこで家族が仲睦まじく暮らしている姿を唄うヒット曲も出た。
当時は、未だ住宅のストック、とりわけ良質な住宅が絶対的に不足していた。従って、最初は民間のアパートに住み、次いで公団・公社等の公的賃貸住宅、公団分譲住宅、そして最後に「上がり」として、ようやく戸建て住宅に住むことができるようになる。人生の過程を通じて、狭くて質の劣る住宅から段々と広くて良質な住宅へと住み替えていくことによって夢がかなえられる。
最近、この住宅双六は必ずしも一般的ではないように感じる。経済的に豊かになっており、また、住宅ローンの多様な商品が提供されることにより、早い段階で都市型マンションや都市型のミニ戸建てなどを手に入れる若年層が増えているのではないか。
住宅地を散歩していると、以前立派な邸宅のあった所に敷地面積が60〜70m2の3階建て住宅が5〜6戸並んでいる姿をしばしば見かける。私は、このミニ戸建てについて、かねてより気になっていることがある。パンフレットなどからみて、こうした住宅の1階は駐車スペースになっており、リビング、ダイニングは2階、居室は3階になっている場合が多い。将来、年齢が高くなっていくと、毎日階段の昇降がさぞかし大変だと思う。
木造3階建ては、ゆとりのある住宅を狙って認められるようになったのだが、それが狭いミニ戸建てを導き出したのだから想定外の結果と言える。

 

住宅の寿命

日本の住宅の平均寿命は30年程であり、欧米と比べるまでもなく、極めて短いのは何故だろうか。夢であった住宅であればもう少し長持ちさせてほしいものである。日本の住宅は広さ、空間にあまり余裕がないことから、住まい手の新たなニーズ(例えば、子供が大きくなったのでもう一部屋ほしい、年をとって足が弱くなったので廊下の幅を拡げたい、など)に応えられないことが多い。また、昭和20〜30年代は、質よりもまず量が重要であったので、質の劣る住宅も多く、手を加えるよりも、壊して新しく建てた方が良いと考えられたのかもしれない。いずれにしても、もったいないばかりか、限られた資源の無駄遣いであり、ひいては地球環境上の問題にもなる。
現在、住宅の長寿命化は重要な政策課題となっており、「200年住宅」をめざして具体的政策の検討が進められていることは大いに喜ばしい。

 

中古住宅の良さ

日本では中古住宅の流通があまり多くない。
中古住宅の流通市場が十分整っていないことも原因のひとつであるが、中古住宅をできれば避けたがる気持ちが日本人に強いからではないかと思っている。「予算が不足気味だから新築住宅を諦めてやむを得ず中古住宅を購入した」といった方々が多い。
私は、中古住宅には新築住宅にない優れている点がいくつもあると考えている。第一に当然のことながら価格の低さである。最近、中古住宅の価格査定も見直されてきており、以前の「3年で半額、10年でタダ」程のことはないが、まだまだ低過ぎるといってよい水準だと思う。
また、中古住宅は現に住宅として存在するので、自分なりのチェックが可能であり、「設計図と違う」とか、「モデル住宅とイメージが異なる」といった問題が生じない。
さらに、一定年数、例えば10年程度経過した住宅は、仮に、施工不良や地盤沈下による傾き、雨漏りなどがあった場合視認できることである。
中古住宅のこうした良さがもっと広く認識され、住宅の長寿命化につながることを大いに期待している。

 

初めての住宅購入

今から5年程前に現在の住宅を購入した。当時で築26年であるから堂々とした中古住宅である。たまたま、新聞の折込チラシに写真入りで載っていた物件で、広さもだいたい予定に合っていた。チラシには「N社施工のツーバイフォー注文建築」と書いてある。
N社はかねてより私の畏敬するM女史が経営に携わっておられた会社であるので、何となく安心感を持った。実際に現地で住宅の内外を見させてもらったが、概ね満足できる状態であったので、あまり日を置かずに購入の契約をすることにした。
仲介の不動産会社の方から、「複数の物件をよく見てから決められる方が多いのに、お客様は珍しい」と言われた。それなら、あまり手間がかからなかったということで仲介手数料でもおまけしてくれるかと思いきや、規定どおりの額を支払わされた。
そもそも住宅の購入に先立って、マンションにするか、戸建てにするかで大いに悩んだ。それぞれにメリット、デメリットがあって、なかなか決められず、結局、5〜10年間、中古の戸建住宅に住んで、その後に再び考えようということになった。
年齢を考えると、その時は、都心のマンションになるだろうという意識が強かったが、現在では、この住宅にできるだけ頑張ってもらって、その後も、ここで新しいツーバイフォー住宅に住みたいと思うようになってきている。

 

周辺のまち並み

大田区久が原地域は、古くは弥生時代に大きな集落があり、多くの人々が暮らしていたことが遺跡調査で確認されている。その後、江戸時代の初期に六郷用水が開削され、明治、大正時代に至るまで、緑豊かな田園地帯が広がっていた。昭和の時代に入って、耕地整理や第二京浜国道の建設に伴い、宅地化が進んでゆき、現在の地形の基本はこの頃につくられたもののようである。
比較的古い住宅地であるので、緑も多く、静かで落ち着いた環境を形成している。耕地整理でつくられたと思われる格子状道路が東西方向、南北方向に走っているが、通過交通が殆どないので、朝や晩には犬を連れて散歩される方々をよく見かける。
ここの北方は雪谷であり、また、北西方向は東玉川、さらには田園調布へと連なっていく。駅付近や商店街を除いて殆ど第一種低層地域の用途指定がなされているため、空も広く、ゆったりとした感じがするせいか、散歩をしていて非常に気分が良くなる。
ただ、高年齢者の割合が一般より高いように感じる。付近の10軒で町内会の単位を構成しているが、私がもっとも若いのには驚かされた。その後私より若そうな方が新たに入ってこられたので少しほっとしている。

 

おわりに

少子化の時代を迎えて、住宅の建設戸数が100万戸を下回ることになるのも近いと言われてから既に10年近く経過したように思う。この間、いわゆる団塊ジュニア世代による旺盛な住宅取得の意欲に支えられてか、120万戸前後で推移しているが、いずれはそういう時が到来するものと考えている。
これからは、ストックの時代、管理が重要、新築よりリフォーム、などと言われてきたが、住生活基本計画には明確にその方向性と基本的方針が示されている。関係者は時代の変化に柔軟に対応できるよう心構えをしておくことが望まれる。

 

小神 正志(こがみ ただし)氏 
昭和48年建設省入省。以降、平成7年建設省建設経済局不動産業課長、平成9年同省住宅局住宅総務課長、平成11年国土庁長官官房会計課長、平成14年国土交通省大臣官房審議官(住宅局担当)、平成16年同省土地・水資源局長、平成17年同省国土計画局長等を歴任され、平成18年に辞職。同年、財団法人住宅金融普及協会会長。平成19年独立行政法人住宅金融支援機構理事に就任され、現在に至る。

 

 

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