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ホーム住まいのコラム>エッセイ「木を伐る文明、木を植え・愛でる文化」:椋 周二氏

木を伐る文明、木を植え・愛でる文化

はじめに…黒船による木材売り込み

ペルー提督像

ツーバイフォー建築協会の皆さんが扱われている木材でおなじみなのはSFPでしょうか。このうち、最も早く日本に入ってきたのはベイマツと呼ばれているDouglas Firで、嘉永3(1853)年にペルー提督率いる黒船によると言われています。勿論、ペルー提督の主な意図は日本に開国を求めることだったと思いますが、幕府にベイマツを献上し、木材の売り込みもしているわけです。
人間生きていくために木を伐りますが、一方では木を植えたり、あるいは愛でるということもします。特に、日本では花木を中心に木に親しむという文化が息づいています。私自身の苗字が木に関係することもあり、「林棲期」に入るといわれる50歳の頃から樹木に関心が強まり、『誕生樹−日々を彩る366の樹木−』(八坂書房)という本を昨年、出版しました。いろいろな人が樹木に親しむきっかけになればと、様々なエピソードなどから1年366日に縁の樹木を(こじつけて)当てはめてみたものです。
今年の6月、地球温暖化対策が主要なテーマになるといわれている洞爺湖サミットが開かれることから、『誕生樹』の中から主要国G8に関係あるものを紹介してみようと思います。

 

ツバキ フランス:ツバキ(1月25日)

フランスの作家・デュマの代表作「椿姫」の女主人公・マルグリットはバラの香りが苦手で、香りのしないツバキを身に付けていたことから「椿姫」と名付けられたといいます。同じくフランス人のモネは自らガーデニングを楽しむ印象派の画家ですが、「睡蓮」という連作が代表作品であることは有名。この作品を大原美術館が購入する際にツバキをプレゼントしたことが功を奏したといわれています。Japanese Rose とも呼ばれている日本特産のツバキは芸術の国・フランスでも愛されたということでしょう。

 

アオキ イギリス:アオキ(1月30日)

産業革命を成し遂げた18世紀頃のイギリス・ロンドンはスモッグに悩んでいました。”霧の都“でも一年中常緑の樹木が求められて、日本からアオキが1783年に導入され評判となったようです。しかし、雌雄異株のアオキの雌株しかイギリスにはないことから、あのアオキ特有の赤い実がなりませんでした。およそ80年後、プラントハンターのフォーチュンが横浜で雄株を発見してイギリスに持ち帰り、それからは赤い実も見られるようになったとか。ちなみに、明治35(1902)年1月30日に日英同盟が結ばれています。

 

ハナミズキ アメリカ合衆国:ハナミズキ(4月26日)

今では街路樹などとして日本でもポピュラーになっているハナミズキは1915年4月26日にアメリカから東京市に贈られたということです。これは1912年にハドソン川開発300年記念式典の際、時の東京市長・尾崎行雄がサクラの苗木3000本を送ったお返しに届けられ、今も国会前の憲政記念館に数多く植えられています。西欧列国は軍艦を出してお祝いをしたなかで、日本からの贈り物は文化的と賞賛されたといいます。

 

シラカバ ロシア:シラカバ(6月18日)

寒さにも強く、瘠せた土地でも生育するシラカバは明るい高原のイメージがします。特に、新緑の頃は白い樹肌とあいまって清々しい感じがします。明治の終わり頃から、武者小路実篤らが「白樺派」を結成して、新しい文芸活動を開始しましたが、ロシア文学の影響が大きいといわれています。そういえば、学生時代に見たツルゲーネフの「初恋」の映画でシラカバ林がでていたような記憶があるのですが。

 

サトウカエデ カナダ:サトウカエデ(7月1日)

カナダの国旗にもなっているサトウカエデは、紅葉するとまさに国旗と同じように真っ赤に染まることを愛知万博のカナダ館脇に植えた樹で確認しました。この樹液から甘いメイプルシロップがとれることから”砂糖楓“と呼ばれていて、シロップは日本でもポピュラーです。7月1日はカナダのナショナルデイ。

 

イチョウ ポプラ イタリア:ポプラ(9月16日)

ポプラはイタリアからヨーロッパに広まったといわれていますが、成長が早くマッチの軸に使われることから、「マッチの日」の9月16日の誕生樹としています。北大のポプラ並木で有名なポプラ、セイヨウハコヤナギはイタリアヤマナラシと呼ばれていたようで、サワサワと風にそよぐ様子からするとイタリアヤマナラシのほうが合っている感じもします。

 

ドイツ:イチョウ(9月27日)

ドイツの文学者・ゲーテは植物にも造詣が深く、一枚の葉が二つに分かれているイチョウの葉をモチーフにした愛の詩を作り恋人に送っています。これは江戸時代、日本でイチョウを発見し、ヨーロッパに持ち帰った植物学者のケンペルからプレゼントされて庭に植えたもの。精子のできるイチョウは、中国原産で、日本を経由してヨーロッパに伝わったことになります。

 

おわりに…“マイツリー”のすすめ

皇室には“お印”といってご自身の身のまわりの品々に目印をつけられるようですが、その多くは樹木や花が使われています(ちなみにシラカバは皇后陛下の“お印”)。家族みんなが誕生日などに因んで自分の木“マイツリー”を持つというのはいかがでしょうか。

 

椋 周二(むくのき しゅうじ)氏 
1950年、島根県生まれ。1975年、京都大学建築科修士課程修了後、建設省入省。海外赴任を含め、建築・住宅行政に携わる。2002年退職後、(財)2005年日本国際博覧会協会で会場整備・環境担当の事務次長。2006年(財)建築行政情報センター専務理事に就任し、現在に至る。

 

 

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