日本ツーバイフォー建築協会では、耐力壁の試験に始まり、これまでに実大建物による静的加力実験を3回実施し、ツーバイフォー工法の静的な耐震性についてはすでに確認されています。また、阪神淡路大震災をはじめ、各地で遭遇した地震の際にもツーバイフォー住宅は被害が少なく、その耐震性は実証されています。しかし、昨今、他工法による実大の振動実験がいろいろな形で行われているなかで、ツーバイフォーの動的な面での耐震性能を工学的に実証する必要性を感じ、2006年4月24日、3階建て実大建物による振動台実験を実施いたしました。 |
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河 合 先生は地震の被害調査を多く実施されていますが、まず、その結果からどのような感想をおもちになったかを、お聞かせください。
五十田 私は、最近の住宅は強くなっているという印象をもっています。特に木造は、他構造と比べて遜色がないほど性能が向上してきていると思います。
しかし、地震で壊れている建物があります。そしてそれらはほとんどが古い木造です。
というのも、建築基準法は被害が起こってからそれを補うために基準を変えてきており、木造の場合は、「こういう基準にしましょう」という規定を定める以前に建てられた建物もあり、なかには耐震性能が確保されていないものもあるからです。
一方、ツーバイフォーは「これくらいの基準を設けましょう」という考え方が最初にあって、それに基づいて建てられたものばかりですから、当然、平均値が高いわけです。
直近の能登半島の地震でいいますと、木造のなかで階高をかなり高くとっている建物があり、柱が折れてしまっているとか、そういう構造計画を誤っているものに被害が出ているものもありました。
河 合 次に、昨年4月に当協会が行ったツーバイフォーの3階建て振動台実験の結果について、どのように評価されていますでしょうか。
五十田 ツーバイフォー工法は、使用する構造用合板や石こうボードなどの構造材料についてJISやJASに規格が定められており、材料の性能があらかじめわかっています。また、それらを使った壁の単体試験や実大建物での静的加力試験を数多く行っているので、今回の振動実験では確実にこれくらいの性能があるだろうという予測が可能であったことと、それがほぼそのとおり確認できたことは評価できると思います。
贅沢を言えば、さらに少し先の、倒壊限度までやりたいという気持ちはもっていますが。
たとえば変形性能についてですが、よく伝統工法には変形性能があり、ゆらゆらしていてもなかなか倒れないと言われますね。また、伝統工法は1本の柱が太くて見た目の安心感もあります。
しかし、ツーバイフォーのような壁式工法は壁全体が鉛直荷重を支持するので鉛直力の支持能力が高く、倒壊しにくく、伝統工法よりもっと変形性能があるのではないかと私は個人的に思っています。それを検証してみたいですね。
静的実験では、ある程度、力の配分を決めてやっているので同じように壊れていきますが、動的だと、どこか1箇所に弱いところができるとそこに地震力が集中して入っていくので、そこで思わぬ損傷が起こることがあります。
今回の実験でも、2階部分に損傷が出て1階に入力が入らなくなり、どんどん2階の変形が進むというようなことがありましたけれども、これはやはり振動台実験をやってみないとわからないことでしたね。
ただ、そこには地震波の特性が関係してきます。今回、実験の際に2階の損傷を起こした地震波は神戸海洋気象台のものでしたが、新潟中越地震のときの小千谷波でやったらどうなったかわからないですし、ほかの地震波でも同様です。地震波を変えればいろいろなことが起こってくるでしょう。
河 合 次に、これから解明しなければいけない点についてお聞かせください。
五十田 倒壊する限界がどこにあるか、たぶん変形角で5分の1ラジアンくらいだろうと推測していますが、これはツーバイフォー工法の特長として解明しておく必要があります。
現在、倒壊については、阪神淡路大震災級の震度6強から7くらいの地震動に対しては、こういうふうに設計しておけば倒壊はしない、安全で、人命を損なうことはない、というのはわかっています。その次のステップとして「これぐらいの地震がきたときに、どれくらいの損傷が起こるのか。どれぐらい補修しなくてはいけないのか」という性能設計ができるように、もう少しデータを分析したり、研究を進める必要があると思います。
河 合 たしかに、そうですね。阪神淡路大震災にしろ、新潟中越地震にしろ、倒壊しないまでも、クロスにシワが入っていた場合に、クロスを貼り替えればいいのか、下地の石こうボードも調べる必要があるのかわかりませんし、石こうボードを貼り替えたとして、どの程度、耐震性が戻っているのかわかりませんね。
五十田 「ここをこうすると次も安全ですよ」ということを言わなければいけないですし、当然、その前段階として「これぐらいの地震動だったらこれくらいの被害が出る可能性がある」ということをきちっと伝えることが大事です。
品確法の等級がありますけれども、これは地震動を何倍かにしているだけであって、どのくらいの地震がきたときにどの程度の被害が出るのかはわからない。
やはり今後は、お施主さんと話をしていくなかで、医師が患者に対して行うインフォームドコンセントのように「こういう地震がきたときはこういう状況になります」ということを伝えられないといけませんね。
ツーバイフォーも、ほかの構造もそうですが、いわゆる性能設計をやっていくためにいろいろ検討していかなければならないことが多いと思います。
そういう意味では、免震というのはわかりやすいですね。「損傷がない」という説明ができているので。
河 合 それも、ある程度シミュレーションして設計するので「これぐらいの地震だったらここまで」「これを越すと、普通の耐震と変わらない」とか。
五十田 そういうことをちゃんと伝えていますよね。今後は普通の耐震構造でもそこまで説明できるようにならないといけないと思います。
加振スケジュール(A試験体:構造駆体 B試験体:仕上げ)
試験体記号 | 加振記号 | 加振波形 | 入 力 | |||
レベル[%] | 方 向 | 加振軸 | ||||
A試験体 | STAGE1 | 加振1 | 試験開始前 | ― | ― | ― |
加振2 | BCJ波レベル1 | 33 | X・Y | 1軸 | ||
JMA神戸海洋波 | 10 | X・Y・Z | 3軸 | |||
加振3 | JMA神戸海洋波 | 50 | ||||
JMA神戸海洋波 | 60 | |||||
STAGE2 | 加振4 | 試験開始前 | ― | ― | ― | |
JMA神戸海洋波 | 10 | ― | ― | |||
STAGE3 | 加振5 | BCJ波レベル1 | 33 | X・Y | 1軸 | |
加振6 | JMA神戸海洋波 | 10 | X・Y・Z | 3軸 | ||
STAGE4 | 加振7 | 試験開始前 | ― | ― | ― | |
加振8 | BCJ波レベル1 | 33 | X・Y | 1軸 | ||
加振9 | JMA神戸海洋波 | 10 | X・Y・Z | 3軸 | ||
加振10 | JMA神戸海洋波 | 100 | ||||
加振11 | JMA川口波(余震) | 100 | ||||
JMA神戸海洋波 | 100 | X | 1軸 | |||
B試験体 | 加振1 | 試験開始前 | ― | ― | ― | |
加振2 | JMA神戸海洋波 | 10 | X・Y・Z | 3軸 | ||
加振3 | JMA神戸海洋波 | 100 | ||||
加振4 | JMA川口波(余震) | 100 | ||||
加振5 | JMA神戸海洋波 | 120 |